現代の企業経営や事業継続において、業務のデジタル化は必要不可欠な要素となっています。しかし、「デジタル化」とは一体何を目的に何をすればいいのでしょうか? 目的や必要性がわからないまま進めても、効果が出ない業務の転換はかえって業務効率の低下を招き、失敗してしまいます。今回は、どのオフィスにもある「帳票書類」のデジタル化・ペーパーレス化について解説していきます。
目次
業務のデジタル化とは
そもそも業務のデジタル化とは何を指すことなのでしょうか。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会によると、デジタル化とは「ITの進化により様々なヒト・モノ・コトの情報がつながることで、競争優位性の高い新たなサービスやビジネスモデルを実現すること、プロセスの高度化を実現すること」と定義されています。簡単に言うと「アナログをデジタルに変える」ということであり、わかりやすい例をあげると、紙で行っていた業務をデータ化する「ペーパーレス化」や対面で行っていた商談をオンラインで行う「Web会議」や「ビデオチャット」も業務のデジタル化にあたります。
世界と比べてデジタル化が遅れているといわれている日本でも、2021年9月にデジタル庁が発足。「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を発表し、本格的な推進が始まっています。
こういった変革は主に大企業から進んでいくものですが、2022年1月に改正された「電子帳簿保存法」により、帳票類の電子保存の条件が大幅に緩和・義務化(※)されました。このことによりなかば強制的に中小企業にも浸透し始めています。
※2021年2月現在、2023年12月31日まで切り替えの猶予期間が設けられています。
デジタル化の目的
まず、なぜ「業務のデジタル化」が必要なのでしょうか。業務のデジタル化の目的は主にこの3つです。
・業務の効率化による収益性の向上
デジタル化により、いままで人の手で行っていた単純作業の多くが自動化できるようになり、業務のスピードが上がります。また、自動化により仕事の属人性もなくなるため、均一的な時間、品質の成果物が出せるようになります。業務の効率化が実現すると、その業務にかかるコストも減少します。結果、全体的なコストダウンも実現します。効率化によりできた資金や時間を新市場の拡大や開拓、新製品の開発などに充てれば、受注率や客単価の向上に繋がり、より大きな利益の獲得が狙えます。
・事業継続性の確保
業務をデータで管理・運用するデジタル化は、事業継続性の確保にも役立ちます。デジタル化を進めておけば、地震や火災などのトラブルでオフィスが使えなくなってしまった場合でも業務が継続できます。また、過去の資料や帳票などのデジタル化は、紛失や消失のリスクが軽減できます。ただ、デジタル化には漏洩や改ざんなどのリスクもあります。進める際にはセキュリティ対策を十分検討しましょう。
・自由な働き方が可能に
近年叫ばれている「働き方改革」や「ワーク・タイム・バランス」の実現には、業務のデジタル化が欠かせません。リモートワークやテレワークを実践している企業の多くは、業務で使うサービスやソフト、業務自体をデジタル化、場所を問わず働ける環境の構築に積極的です。
・顧客満足度の向上
皆さんは企業に問い合わせの電話をしたとき、長い時間待たされたという経験はありませんか? 属人的になりがちな顧客サポートも、デジタル化により対応時間の短縮や、対応品質を上げていくことができます。顧客満足度を上げていくことは、現代の事業において重要な要素です。他社より充実した顧客満足を提供するためにも、業務のデジタル化は有効です。
日本で業務のデジタル化が進まない理由
先述の通り世界と比較して遅れているといわれている日本。ではなぜ日本ではデジタル化が進まないのでしょうか。
日本独特の紙文化
日本は海外に比べ紙の種類が多く、古来より様々な紙文化が形成されてきました。そのため紙に対する信頼感が高く、法的には問題はないにも関わらず契約や承認、稟議は紙で行わなくてはならないという意識が根付いていて、その傾向は年齢が高くなればなるほど顕著です。これに加えて、日本独自のハンコ文化も紙がなくならない原因だとされています。
FAXでのやり取りが商取引に根付いている
日本のビジネスシーンにおける、紙文化の代表例が「FAX」です。国内での普及率が高く紙で運用できるFAXは日本独自の紙文化との相性が非常によく、発注書や納品書などの帳票はFAXで授受する、という慣習が根付いています。2020年初頭から蔓延し始めた新型コロナの影響もありテレワークが広がった環境下でも、約3割の企業が「FAXの対応のため出社している」という調査結果も出たほどです。このFAX文化も業務のデジタル化への大きな障壁となっているのは間違いありません。
帳票のデジタル化・電子化の方法(送信側)
では、このFAXでやりとりする帳票を電子化するためにはどうすればいいのでしょうか。まずは自社から送信するFAXを電子化する方法を紹介します。
EDIの導入
帳票を紙で送るから、相手も紙で対応するという業務になります。ゆえに、こちらから送信する発注や見積もり、納期回答をEDI(電子データ交換)で行えば、商取引における紙はなくなります。しかし、EDIは取引相手も同じシステムを使用する必要があります。ゆえに、取引をすべてEDIにしてしまうと対応できない取引先との関係が希薄になるというリスクを抱えます。
帳票FAXサービスの利用
相手がEDIなどの電子取引に対応できない場合は、帳票FAXサービスを利用するといいでしょう。帳票FAXサービスは、自社で使用しているシステムから帳票用のデータ(テキストやPDF等)を出力し、FAXサーバーに転送する、印刷せずにFAXが送信できるサービスです。このサービスを利用すれば、相手がFAXでのやりとりしか対応していない場合でも、こちらの電子化は達成できます。帳票FAXサービスは、自社サーバーを建てる用意する必要がないインターネット経由で利用できるものがおすすめです。
帳票のデジタル化・電子化の方法(受信側)
自社のFAX送信をデジタル化しても、取引先から返信・送信してくるFAXはなかなかなくなりません。しかし、そのFAXを電子化しないことには、真のデジタル化は進みません。そこで、便利なのが「インターネットFAX」と「AI OCR」を組み合わせた改善方法です。
インターネットFAXとは
自社の複合機やFAXサーバーを使わず、Web上でFAXの送受信ができるサービスです。サービスはWeb上で提供されるため、サーバーの購入費や回線の契約費用などの初期費用が不要。簡単に自社専用のFAX番号が取得できます。また、サービスをWebで提供しているという特性から、テレワークにも相性がよくここ数年で一気に注目を浴びています。FAXは紙を使いやりとりするものだと思いがちですが、インターネットFAXは相手の環境に依存することなく、自社のFAX環境をペーパーレス化できる便利なサービスです。
AI OCRとは
AI OCRは文字の読み込みにAIによる深層学習(ディープラーニング)やレイアウト解析の能力をもたせたサービスです。たとえ一度誤認識が発生しても、その修正データを学習することにより、認識精度を高めていけます。この技術はFAX帳票に相性がよく、FAXで送られてくることが多い手書き帳票の読み取りに効果を発揮します。
AI OCRとインターネットFAXの相性は抜群
AI OCRの多くは、クラウドサービスとして提供されています。ゆえに、前述のインターネットFAXとの相性がよく、サービス提供会社によっては、インターネットFAXとAI OCRを組み合わせた利用ができるところもあります。FAXは紙で受信し、その紙をAI OCRで読み込むという運用は非効率ですので、ふたつのサービスをセットにして検討していくといいでしょう。
送信・受信のサービスを組み合わせてデジタル化を実現
帳票FAXサービスとインターネットFAX、AI OCRを組み合わせれば、相手の環境を変えずに帳票FAXに関する業務のデジタル化が実現できます。また、EDIと併用することにより、取引先の環境に合わせた柔軟な対応が可能になります。
送信後、受信後の帳票はPDF形式で出力されているため電子帳簿保存法に対応しやすく、出力したデータをRPAで処理すれば、さらなる効率化が望めます。御社のDXの一環として、検討してみてはいかがでしょうか。